こんにちは。ビジネス出版部のからまるです。
日米防衛人脈をつなぐフィクサーとして、昨年秋から疑惑を取り沙汰されてきた秋山直紀さんの独占手記『防衛疑獄』を、来週18日に発売します。
一連の報道で周知のように、秋山さんは7月24日午後、任意で出頭した東京地検特捜部で逮捕され、先週、脱税容疑で起訴されました。今回の手記は、まさに逮捕の直前数時間前に、原稿の最後の疑問点数ヵ所を、からまるが電話で確認して、完成したものです。逮捕以降、1ヵ月半も経ち、一度の勾留延期を経て起訴されてもなお、証拠隠滅のおそれありという理由で保釈請求が裁判所に認められず、接見の制限(現在は弁護人だけ)もいまだに解かれないという、1億円に満たない脱税容疑としては異例の長期拘束になっているため、この本はやむを得ず獄中出版ということになりました。
この企画は、昨年秋、その後収賄容疑で逮捕されることになる守屋前防衛次官が国会の証人喚問で、当時、防衛商社の山田洋行から政界に資金が流れているのではないかという「防衛疑獄」の焦点になっていた、久間前防衛大臣や額賀元防衛庁長官と守屋・宮崎前山田洋行専務の会合をセッティングした人物の名前として秋山さんを挙げたこと(秋山さん本人は否定)に、からまるが興味を抱いたことに始まります。その後に出た様々な新聞・雑誌記事で秋山さんの「フィクサー」ぶりを読むにつけ、からまるのアタマの中には、本でやってみたいテーマが鮮明に浮かび上がってきました。
日米同盟の闇。
今までいろいろな本を作ってきた中で見る、誰もが何の疑いもなく書く「日米同盟」という言葉の抽象度に、からまるはずっと前から気持ち悪さを感じていました。まるで神学のように不可侵な言葉として語られる言語感覚がどうしてもイヤで、かといってその内実を戦後史の中で裏付けていくという扱い方ではなく、その同盟とやらを形あるものにしている人間関係、戦勝国と敗戦国の強者と弱者の心情関係の「いま」が、ノンフィクションの切り口で書かれることはないのだろうかと、漠然と思ってきたのです。
からまるは年末年始、自宅で新しい年の仕事を考えていたとき、その一つとして、こうしたアプローチから秋山さんに本を書いてもらおうと思ったのでした。仕事始めの日に、からまるは次のような文章を手紙に盛り込んで書き、郵送しました。
――「防衛問題について私は素人同然でありますが、世界で最も重要な同盟関係の一つであるはずの日米同盟について、多くの論者は抽象的に、あるいはいささか嫌悪感をもって語ることが多いように思え、しかし国と国の関係、人間と人間の関係であるからには、ままならない現実が多いはずだと思っておりました。どんな人物がこの日米同盟を実のあるものにすべく尽力しているのかと思っておりましたら、一連の報道で秋山様のお名前を知ったという次第であります」
秋山さんから返事が来たのは、その後秘書の方に問い合わせてもなかなか反応がなく、次第にその手紙を書いたことさえ忘れかけていた3月上旬です。パレロワイヤル永田町の最上階にあったオフィスで面会したときは、本人は本を出す気などまったくありませんでした。それどころか、自分がオモテに出ること自体を嫌がっていました。
しかし、自分のアタマの中にできあがってしまったテーマを捨てるのは、どうしても忍びない。面会後、次のような手紙を書いてファックスで送りました。
――「私はこの本を刊行することで、①日本の防衛装備の実態、②防衛利権と言われるものの実態、③日米同盟の真の実像、④防衛問題を扱う政治家と官僚の問題、⑤防衛問題の本質を見ずに口当たりのいいことを発信するマスコミの問題を、多くの人に知ってもらいたいと考えています。そして何よりも、本書を通じて、秋山さんという人物を必要とした、この国の構造的・歴史的な問題点を多くの人に気づいてもらい、今後の日本の方向を考えてもらいたいと思っているのです」
その後に面会したときに、この趣旨を繰り返して口説きました。ようやく同意を得て、4月上旬、長い長い取材がスタートしたのでした。
それからの経緯や裏事情については、来週にまた書きたいと思っていますが、以上に書いてきたような、この企画の最初の時点で考えた趣旨は、今に至るまで何も変わっていないのです。それが、脱税容疑で逮捕され、それを本人が認めるという予想外の波乱が起きても、この企画を断念しなかった理由です。
からまるの目には、いまだに厳しい接見制限を続けているということは、司法当局が徹底して秋山さんと外部の接触を断とうとしているように映ります。たしかに証拠隠滅を防ぐことが理由だとしても、果たしてそれだけだろうか、もっと他に意図、あるいは感情的な何かがあるのではなかろうかと疑わしく思えてもしまいます。それだけに、手記の刊行という事実があまりにも前もって知られることが不測の事態を招くようなことがあったとしたら、その責任の一端を負わなくてはなりません。からまるが今まで、この企画をナイショ3兄弟の長男として、書店さんだけでなく講談社内にさえ公表してこなかったのは、そういった理由によるのです。