他社ながらアッパレなビジネス書『フリー』。

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こんにちは。講談社BIZのからまるです。

いまや出版業界の人間ならみんな目を血走らせて読んでいるといわれるクリス・アンダーソンの『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略』(小林弘人監修・解説、高橋則明訳)が売れまくっています。さすがに読むと興奮させられます。ゼロ円携帯になじんだ中では、一瞬「何が新しいんだろう?」という印象を抱くところもあるのですが、「非収益化・非貨幣化」経済のイメージがつかめ、また副題から読み取れるように、そうした経済条件からどんな新しい収益化モデルを作れるかという、その問い自体が新しいように思いました。

また、編集者として考えるなら、フリー経済の概念を前提にした日本人著者の新しい本を作りたいですね。今までデフレ経済に苦しんできたわけですが、フリー経済はそれとはまったくちがった現象でありアイデアであると思うのです。

......なんてご託をからまるが並べても仕方ないので、関心のあったところをクリップします。この本は後半のほうがわかりやすく、とくにフリーに対する批判的言説を再批判する第16章にエッセンスが表れているようです。

 

「非収益化」はその影響を受ける人々を苦しめる。だが、一歩離れて見れば、そこにあった価値は失われたのではなく、金銭ではかれないような別の形で再分配されていることがわかるのだ。○第八章 非収益化 p168

 

人々が欲するものをタダであげて、彼らがどうしても必要とするときにだけ有料で売るビジネスモデルをつくるのだ。(略)こうした現象は皆さんのまわりでも起きている。携帯電話は長距離通話を無料にして、長距離電話ビジネスを非収益化してきた。そのことで、電話会社以外の人間が文句を言っているのを聞いたことがあるだろうか。(略)勝者の数は敗者を大きく上回る。フリーはまちがいなく破壊的だが、この嵐が通ったあとに、より効率的に市場を残すことが多い。大切なのは、勝者の側に賭けることだ。○第八章 非収益化 p175

 

書店の書棚のスペースが縮小し、新聞の書評欄が消えていく世界において、作家は読者を増やせる可能性があることならなんでも試そうとする。(略)「作家の敵は著作権侵害ではなく、世に知られないでいること」なのだ。フリーはもっとも低コストでもっとも多くの人に作品を届けられる方法であり、試し読みが役目を果たすと「上級」版を購入する人が出てくるだろう。本をアトムの形で持ちたいと望みつづけるかぎり、読者は紙の本に代金を支払いつづけるのだ。○第九章 新しいメディアのビジネスモデル p215

 

バージョン化の基本には、似たような製品を異なる顧客に異なる価格で売るという考えがある。(略)これがフリーミアムの核心だ。あるバージョンは無料で、別のバージョンは有料になる。つまりマルクス主義の言葉を借りれば、消費者がお金を払うのが「支払い能力に応じて」から「必要に応じて」になったのだ。○第11章 ゼロの経済学 p233

 

私たちには、仕事では満たしきれない精神面や知性面の欲求もある。私たちは自分が重要だと思う領域で無償労働をすることによって、尊敬や注目や表現の機会や顧客を得ることができるのだ。(略)ウェブの急成長は、疑いなく無償労働によってもたらされた。人々は創造的になり、何かに貢献し、影響力を持ち、何かの達人であると認められ、そのことで幸せを感じる。こうした非貨幣的な生産経済が生まれる可能性は数世紀前から社会に存在していて、社会システムとツールによって完全に実現される日を待っていた。ウェブがそれらのツールを提供すると、突然に無料で交換される市場が生まれたのである。○第12章 非貨幣経済 p251

 

ウェブは主にふたつの非貨幣単位で構成されている。注目(トラフィック)と評判(リンク)だ。○第16章 「お金を払わなければ価値のあるものは手に入らない」 p296

 

人々がCDをコピーするとき、彼らは、(シェリル)クロウのアルバム制作は価値がないと言っているのではない。基本的に、流通という特定の行為、すなわちデジタルコピーの作成に関して、彼女は何もしていないと言っているのだ。そして実際そのとおりだ。コピーの作成におけるクロウの限界費用はゼロであり、ファイル交換世代のデジタル経済に対する感覚では、コピー作成について彼女への支払いはゼロであってあたりまえだという答えになるのだ。○第16章 「お金を払わなければ価値のあるものは手に入らない」 p297

 

海賊行為は重力のようなものだ。(略)法律化されたソフトウェアにコードとして組み込まれた著作権保護の方式は、重力にあらがって料金を高く支えている。だが、その料金は遅かれ早かれ、著作権保有者が落とすか、不正コピーで地面に叩き落とされるかして、低下するだろう。私は海賊行為を大目に見るわけでも、奨励するわけでもない。それが教育や法律によってなくせるたぐいの社会的行為ではなく、もっと自然の力のようなものだと言っているだけだ。(略)進化は種が絶滅しても感傷的にならないのと同じ理由で、経済活動が道徳を考慮することなどほとんどない。○第16章 「お金を払わなければ価値のあるものは手に入らない」 p304

 

フリーと競争するには、潤沢なものを素通りしてその近くで稀少なものを見つけることだ。(略)もしも自分のスキルがコモディティ化したならば、まだコモディティ化されていない上流にのぼって行って、人間が直接かかわる必要のある、より複雑な問題解決に挑めばいい。そうすればフリーと競争できるようになるだけではない。そうした個別の解決策を必要とする人は、より高い料金を喜んで支払うはずだ。○第16章 「お金を払わなければ価値のあるものは手に入らない」 p308

 

フリーは魔法の弾丸ではない。無料で差し出すだけでは金持ちにはなれない。フリーによって得た評判や注目を、どのように金銭に変えるかを創造的に考えなければならない。○第16章 「お金を払わなければ価値のあるものは手に入らない」 p310

 

従来は製品の95パーセントを売るために、5パーセントを無料で提供するのだが、フリーミアムは5パーセントを売るために、95パーセントを無料で提供する。これが成り立つのは、デジタル製品の限界費用がゼロに近いので、95パーセントの製品にかかるコストも少なく、大きな市場にアクセスするためならそのコストを容認できるからだ。○巻末付録②フリーミアムの戦術 p328

このブログ記事について

このページは、karamaruが2010年2月 9日 16:03に書いたブログ記事です。

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