2012年3月アーカイブ

こんにちは、からまるです。

サムライと愚か者.jpgのサムネール画像
『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』のもう一つの「暗闘」とは、著者の山口義正さんと本書に登場する「金融プロ」人脈です。

オリンパスが買収した問題の国内3社の1社の株主構成に「グローバル・カンパニー」という会社が出てきます。この会社にはオリンパスが出資していて、経営する横尾宣政社長がオリンパス側と謀って高額の買収資金をケイマン島国籍の海外ファンドに流したという疑いで逮捕されています。また、もう一人、この海外ファンドに関与しているジェイ・ブリッジという会社の元社長(本書では実名で表記)も登場します。この二人がオリンパス社外の重大な事件関係者であるという指摘を、本では具体的にしているのです。

この横尾社長と同様にオリンパスの社外アドバイザーで関与を疑われて逮捕された中川昭夫氏は野村証券の出身です。そういえば年金運用資金消失で大問題になっているAIJ投資顧問の浅川和彦社長も野村証券OBです。日刊ゲンダイは3月27日付けの紙面で「野村証券出身者はなぜ悪事を働くのか」という刺激的な見出しで、最近の経済事件に野村証券OBが多数関与している事実を記事にしています。蛇の道は蛇といったら失礼かもしれませんが、野村証券OBの横尾社長たちの計画はオリンパスの隠し損失の飛ばしのためであることをいち早く指摘したのも、野村証券OBが書き手とされる「闇株新聞」というブログでした。

山口さんはオリンパス事件の周辺に野村証券出身者の存在が目立つことについて「彼らを抜きにして一連の事件を語ることはではないし、事件そのものが発生しなかったかもしれない」と本でまとめています。そうです、『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』は野村証券OBたちの行動に焦点を当てた物語でもあるのです。

『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』は本日発売。

明日は用事が多くお休みします。また来週!
こんにちは、からまるです。

昨日のエントリの続き、山口義正さんの『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』のタイトルの意味について。じつはこれは単純で、からまるが原稿を読んでもっとも印象に残ったフレーズから採ったのです。そのフレーズが次の部分です。


「この席でウッドフォードが少しだけ感情を込めて私に尋ねたことがある。
「日本人はなぜサムライとイディオット(愚か者)がこうも極端に分かれてしまうのか」
身の危険を顧みずに不正を追及しようとするサムライもいれば、遵法精神に欠け不正を働いたり、何の疑問も持たずにこれを幇助したりするイディオットもいる。あるいは不正を働いた企業側に回って正論に耳を塞いでしまう金融機関もイディオットに分類されるかもしれない。
私はついにウッドフォードの問いに答えられなかった。両極端に分かれてしまう理由を並べ立てようと思えばいくらでも並べられるだろう。しかしどんな答えを並べても、ウッドフォードを納得させられるとは思えなかったからだ」
(第七章 官製粉飾決算)


では、誰が「サムライ」で、誰が「愚か者」なのか。それを知るには本を読んでいただく以外にありませんが、すでにご想像のように、内部告発に立ち上がったオリンパス社員たちこそ本当の「サムライ」です。問題の3社買収を決めた2008年2月22日の取締役会に出席し、賛成したほとんどの役員たちはどうか。損失隠しを行った菊川元会長ら3人は逮捕されました。また、他の役員も善管注意義務違反を問われ、株主代表訴訟を起こされています。しかし、役員以外の幹部社員は、荷担の程度はわかりませんが、不正の事実に頬被りしたとは言えないでしょうか。山口さんに最初の情報提供をしたオリンパス社員さえ不正買収の事実を知っていたわけですから。

こうしてメインタイトルは『サムライと愚か者』に早々に決まったのですが、これではオリンパス事件の本であることがわからないので、サブタイトルをどうするか考えました。「オリンパス事件」を入れるとしても、何か加えたい。山口さんがオリンパス事件を追及したわけですから、「追及オリンパス事件」とするのがもっとも自然かもしれませんが、昨日のエントリで書いたように、この原稿が持つ、経済ノンフィクションを超えた社会派サスペンスのエンターテインメント性がうまく伝わらないような気がしました。また、ウッドフォード元社長と菊川元会長の深刻な対立は、後に経営権を巡る委任状争奪戦に突入しかかったくらいの文字通りの暗闘と化しましたし、その暗闘は社内のあちこちに亀裂を引き起こしました。取材者である山口さんと被取材対象であるオリンパス経営陣の暗闘でもありました。そのことをタイトルにどうしても盛り込みたくて、『暗闘オリンパス事件』というサブタイトルになったのでした。

じつは、この「暗闘」には、もう一つの意味が隠れています。その「暗闘」とは何か、それはまた明日!
こんにちは、からまるです。

3月1日に入稿した『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』の原稿が初校ゲラになったのが、翌週月曜の5日です。校閲担当者には中3日で見てもらえるようにお願いしましたが、もちろん大変不評で、後日、あんな肝を冷やすような進行は勘弁してほしいと言われてしまいましたが、著者の山口さんにはやはり土日でじっくり見てもらう必要があり、なんとしても校閲済みの初校ゲラを金曜日に山口さんにお渡ししたかったのが第一の理由ですが、その頃は山口さんもからまるも、他の出版社からいくつか出る関連書の発売動向を気にして、できるだけ急いで進行したかったのです。

もっとも気になったのが、マイケル・ウッドフォード元社長の手記です。イギリスのエージェントから日本の出版各社に昨年、この手記企画の売り込みがあったことは業界では周知の事実でしたが、ウッドフォード元社長の英語インタビューを再構成して翻訳するとなると相当時間がかかるにちがいない、早くても刊行は5月くらいではないかとタカをくくっていました。ところが、版元の早川書房さんが、からまるたちが驚くほどの猛スピードで編集を進め、オリンパスの株主総会が開かれる予定の4月20日の直前に、おそらくはウッドフォード元社長がそのために来日するのに合わせてだと思いますが、刊行する計画(『解任』という本です)になっていることを掴んだのでした。

サムライと愚か者.jpg
じつは、このことを知る前の段階では、『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』の発売予定は4月初旬だったのです。一刻も早くしたいと、からまるは考えました。販売部も同じ考えで、急遽、編集の進行や見本から取次搬入までの日程を合計して5日くらい短縮して、3月29日発売に変更したのです。

3月9日夕方に校閲が終わった初校ゲラを編集部の会議室で山口さんに渡します。そして翌週12日月曜日に再び山口さんに来社していただき、ゲラを戻してもらいました。さらにからまるが初校戻し作業を行い、再校ゲラが出たのは中1日の14日。またまた校閲担当者に泣いていただき、翌日午後イチまでに初校赤字直し中心に見てもらいます。それを、三度来てもらった山口さんといっしょにチェックし、この15日に本文責了となりました。入稿から2週間後のことです。

表紙周りも大急ぎの進行となりました。装幀をお願いしたのは石間淳さん。さすがは実力派で、こういうドタバタ進行のときには本当に頼りになります。いや、もちろん、いつもこんなにドタバタ進行したいわけではないんですが。おかげさまで、大変ドラマチックなイメージの表紙に仕上がりました。昨日のエントリで書いたように、社会派ドラマのエンターテインメント性が滲み出ていると思いません? からまるは最初見て、ヤクザ映画のポスターみたいだと感じたくらいです。

その印象はタイトルのせいかもしれません。では、どうして『サムライと愚か者』なのか。その理由はまた明日!
こんにちは、からまるです。

いよいよ29日木曜日に緊急発売する山口義正さんの『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』。ご存じの方が多いように、オリンパスに不透明な買収案件があったことは、月刊誌の「FACTA」2011年8月号がスクープ報道しました。からまるは創刊号から「FACTA」の購読会員ですので、へえあの会社がねーと思った意外性に、からまるにとってはひじょうに印象深い木村剛さんの日本振興銀行事件も最初にこの雑誌が報じたという記憶が重なって、「FACTA」がまた何かつかんだのだなと思ったものです。

その後、講談社の「現代ビジネス」で、山口義正さんという経済ジャーナリストがオリンパスの買収のカラクリを、入手したとされる取締役会の内部文書をスキャンして掲載しながら追及した記事を読みました。たぶんこれは「FACTA」の記事を書いた人が実名公表して書いたのだなと思ったのですが、後日、その「現代ビジネス」から山口さんの紹介を受けたのです。

からまるが初めて編集部の会議室で山口さんにお目にかかったのは、仕事納めも間近な2011年12月27日のことでした。「FACTA」と「現代ビジネス」で書いた原稿をベースに本を書くという話は瞬く間に決まりました。さて問題は時間です。12月27日の6日前の21日には東京地検特捜部、警視庁捜査二課、証券取引等監視委員会の合同家宅捜査が行われました。まだこのときはマイケル・ウッドフォード前社長が次の株主総会で委任状闘争を行うと表明したままでした。つまり、27日段階ではオリンパス事件がどう進展するのか、まだ事態がよくわからなかったのです。どこまで事件を追いかけ、いつ書けて、いつ出せるのか。とりあえずその場で決まったのは、1ヵ月後の1月末までに原稿を書き上げようということでした。

からまるは、山口さんが打ち合わせで話した内部告発の様子にもたいへん興味を抱きました。オリンパスに限らず大企業はどこも社員による秘密漏洩に対して何重ものロックをかけています。たとえそれが社内の不正を暴くのが目的であったとしても、いやだからこそ厳重なはずです。不正を暴く資料を外部のジャーナリストに託す勇気、その反動としての緊張感。秘密の重大性が大きければ大きいほど緊張感は高まります。それでも正しいことをしようとする勇気と秘密資料を託されたジャーナリストの責任感が、この本の隠れテーマになるんだろう。まるで良質の社会派サスペンス映画さながらのエンターテイメント性(こう書くと、とくに逮捕された関係者には失礼かもしれませんが)を感じたのです。

けれどもそう簡単にものごとが進むはずはなく、さすがに原稿執筆は1月末締め切りでは無理で、完成したのは2月下旬になりました。少し調整した後、印刷所に入稿したのは3月1日。さあ他社との競争がスタートです――。
あの名門企業がなぜ?と多くの人を驚かせたオリンパス事件。

発覚のきっかけは、月刊誌「FACTA」2011年8月号記事「オリンパス 「無謀M&A」巨額損失の怪」でした。2008年に買収した3つの小さな会社に、オリンパスが企業価値をはるかに上回る買収額の算定をしてお金を支払った事実が、そこで初めて明らかになりました。その記事を当時のマイケル・ウッドフォード社長に知人が英訳して読ませたことから、ウッドフォード氏のオリンパス経営陣告発が始まったのでした。

これ以降、「FACTA」はオリンパス事件の真相追及で他紙誌を寄せ付けない、ぶっちぎりの調査報道を繰り広げました。その一連の記事により、掲載当時は匿名だった著者の山口義正さんが、今日発表の「第18回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」で「大賞」を受賞しました(大賞は2作品)。

誰よりも早くネタを掴み、オリンパスの闇を追及した山口さんの緊急書き下ろし本『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』を3月29日に緊急発売いたします!

来週は、怒濤の緊急出版の内幕をご紹介していきますね。
こんにちは、からまるです。

学ぶとはどういうことか.jpgのサムネール画像
佐々木毅さんの『学ぶとはどういうことか』発売日の今日、アルファブロガー土井英司さんが「ビジネスブックマラソン」でこの本を取り上げてくださいました! うれし過ぎる!! どうもありがとうございます<(_ _)>

その一部をご紹介しますね。


「「一生のうちに、人生を変えるほどの一冊に出会えなかったとしたら、それはあまりに寂しい」
これは、土井が佐々木さんにお会いした時聞いた、本人の言葉(うろ覚え)ですが、佐々木さんにとって、その一冊とは、マキャヴェリの『君主論』でした。
佐々木さんは、この『君主論』に心を打たれ、政治学者への道を歩むことになったそうです。
本日ご紹介する一冊は、自身、学びのプロであり、東京大学、学習院大学では生徒をも学問の道へといざなった、佐々木毅さんによる「学び」考。
これがおもしろくないわけがありません。(中略)
福澤諭吉の名著『学問のすゝめ』や『文明論之概略』、古代ギリシャの哲学者たち、現代政治思想などのエッセンスが効いていて、「これぞ教養」と呼べる内容です。
学ぶことの本質、われわれが陥りやすい罠、挑戦すること、知的態度を持つことの大切さなど、これからも学び続ける人なら、一生使える知恵が詰まっています


この引用の中略部分では、「こんな素敵な企画、誰が思いついたんだろう」とまで書いていただきました。おかげさまで、今日はアマゾンランキングがもっとも高いところで170位まで上昇。じつに幸先のいいスタートを切ったのでした。
こんにちは、からまるです。

学ぶとはどういうことか.jpg
政治思想史の重鎮で東大元総長の佐々木毅学習院大学教授の新刊『学ぶとはどういうことか』の執筆は、3月19日のエントリで紹介したように、東日本大震災をきっかけにして本格的に始まりました。佐々木さんは「あとがき 「学び」は人生の可能性へのチャレンジ」でこう記しています。


「それ(震災と原発事故)はこれまでわれわれが「学んできた」こと、それを踏まえて当然だと思ってきたことを一瞬にして無にしたということができる。(中略)当然のことながら、これまで「学んできた」ことの権威は大きく動揺するとともに、新しく「学ぶ」こと、「学びなおす」こと、さらには新しい「生き方」を模索する必要を喧伝する動きが急速に広がった。(中略)「学ぶ」ことが単なる学習では済まなくなり、その枠を越えるものとして新しい意味づけを与えられたということである。それは「学ぶ」ことについての人間的・哲学的次元の復活とでもいうべき側面を持っていた」


今までの「勉強」の成果が一瞬にして役に立たなくなる。それが本当の時代の変化なのだと思います。かといって「勉強」そのものが役に立たないわけではないでしょう。そうではなく、「勉強」の質そのものが問題だったのではないか。「勉強」を超える境地に「勉強」の本当のゴールがある。そのように『学ぶとはどういうことか』には書かれています。

そこでからまるが帯のコピーにしたのは、

「勉強」だけで満足できますか?

「勉強」で人生終わっちゃ、つまんないじゃないですか。「勉強」の上に新しい創造物を打ち立てることこそ、本当の人生の喜びなのではないかと、からまるは心の底から思っています。

明日、3月23日発売。読めば読むほどいい本です。とくにからまるは、第六章の「「学ぶ」ことの可能性と限界をめぐって」が大好きなのです。そのうちご紹介しますね!
こんにちは、からまるです。

一昨日に続き佐々木毅さんの『学ぶとはどういうことか』について書こうと思っていたのですが、一つ書くべきネタを忘れていました! 正木静修さんの『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』のことを、コンサルタントで『プロフェッショナル原論』(ちくま新書)など多くの著作がある波頭亮さんが推薦してくれた件のことを。

マントラを掲げよ.pngのサムネール画像
『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』の校了が間近に迫った頃、からまるには考えなくてはいけないことがありました。この本の凄さをどうやって読者の皆さんに伝えたらいいのか。著者の正木さんは覆面作家ですし、著名人のお知り合いがいるわけではありません。本当に一介のサラリーマンが書いた小説なのです。どなたか応援してくださる方を探さないといけません。

からまるの頭の中にすぐに浮かんだのが、波頭亮さんでした。じつはからまるは、波頭さんのことをけっこう以前から存じ上げているのです。著書もいくつか読んでいます。近著では冨山和彦さんとの対論による『プロフェッショナルコンサルティング』が好きですね。戦略といえば波頭さんだし、小説の主人公は戦略系コンサルタント、そして物語の舞台になっているようなビッグビジネスの経営者を波頭さんはたくさんご存じです。また、波頭さんはどちらかというとクールヘッドのイメージがあると思うのですが、著書からは熱い心の持ち主であることがびんびん伝わってきます。

そんな次第でおそるおそる波頭さんに連絡を取り、最終ゲラを読んでもらいました。たいへんありがたいことに本の趣旨や内容にご賛同いただき、某日夜、波頭さんのオフィスに正木さんをお連れしたのです。しばし面談の後、推薦の協力をもらいました。あのときは本当にホッとしたなあ。

推薦文は、その面談のときに波頭さんが感想でおっしゃった『本書はビジネス版の「官僚たちの夏」だ』にしました。『官僚たちの夏』とはもちろん城山三郎さんの傑作小説で、ドラマ化も話題になりました。ハートを燃えたぎらせ、高い志を抱いて仕事に取り組んだ男たちの奮戦ぶりが『マントラを掲げよ』の登場人物たちに重なったのだそうです。どうもありがとうございました<(_ _)>

さらに、講談社が誇るウェブメディア「現代ビジネス」にも応援の寄稿をしてくださいました。タイトルは「合理性を超えた戦略を成功させるのは志と信念である マントラを掲げよ 第1回 波頭亮「成功する人のエクセレント・マインド」」。少し抜き書きしますね。


「私は、人間は誰しも「信念」を持つべきだと思っている。例えば、ビジネスでいえば与えられた仕事を前に、大きな壁を感じたときにどう動くか。「まあいいか」と長いものに巻かれて、曖昧な結論で満足するか。自分はいい仕事、結果を残すことがミッションで、会社の中でうまく立ち回ることではないと思うか。その選択次第で自らの仕事に対する姿勢や生き方が決まることになる。
いまはどんなに困難な仕事で、たとえ上司に十分に理解されなくても、自分自身の価値観とプライドを捨てずにやり抜く。そんな精神力が求められている。言葉を換えれば、小器用でも従順でもなくても、しっかりとした信念を持ってやり抜く力、折れない心を持って自らリスクを取れる人が求められている。
21世紀の勝ち組に名乗りを上げるような強い企業のトップの方たちと話をすると、そんな人材を求めていることがひしひしと伝わってくる。特にリーマン・ショック以降は、リスクから逃げていたのでは、企業に明日はないことをトップは身にしみて理解している。そんなこともあって、反骨の人がどんどん登用されるようになって来ている。
反対に従順で小器用な人というのは、そつなく仕事をこなすのである程度までは出世は早いが、状況に合わせて自らを変化させることができるので、まるで背骨のない軟体動物のように大勢迎合的に考え、リスク回避志向で動いてしまう。こういうタイプの人が経営陣の大半を占めるようになってしまったら、会社は間違いなくダメになる。これからは、どんどん「出る杭」になれということだ」


そして最後に、「この本は、ビジネスマンが最前線の戦いに出る前のファンファーレである」と書いてくださいました。くうー、うれしい。涙が出るよなあ。
こんにちは、からまるです。

書籍の完成には時間がかかるものです。もちろん執筆時間が長くかかるからですが、それ以上に、構想時間といって、頭の中に寝かせて発酵させる時間がとても長くかかる場合が多いのです。3月23日に刊行する佐々木毅さんの『学ぶとはどういうことか』もそうでした。

最初にこの案をからまるが考えたのが、2008年の1月のことでした。以前からお仕事でお付き合いをしていた佐々木毅先生を学習院大学の研究室にお訪ねして、「学ぶとは何か」という企画をお考えくださいませんか、とお話ししたのが始まりです。

どうしてそんな昔のことを覚えているかと言いますと、からまるの企画のネタ帳に、その1年後の1月28日に「学ぶとは何か」の構成の大ラフを記しているからです。そして翌日付でからまるは佐々木さんに、その大ラフとともに次のような文面の手紙を出しているのです。

「もう1年前になりますが大学の研究室をお訪ねしていろいろお話を聞かせていただきました。(略)あの折りに私のほうから佐々木先生にご提案した企画について、再度ご検討いただけないかと考えた次第だからです。ご記憶にないとは存じますが、「学ぶとは何か」についてお書きいただけないかとご提案いたしました。
知的衰退を嘆くというのは何も今に始まったことではありませんが、今回の「グローバル・スタンダード」なるものが忽然と崩壊して呆然としているような状況を見ていますと、ここ十数年、あたかも万能かに見えた金融資本主義さえも、歴史に学ぶことがなかった、本質的ではない構造体だったように感じてしまいます。これからはニセモノがはがれてホンモノの時代が来ると最近よく言われますが、では新しいスタンダードを創造するといっても、何をよりどころとするのか、それを見極める力がなければ、また次の新しいニセモノを作り出してしまうだけに終わるのかもしれません。
ことに、この十数年を「グローバル・スタンダード」に対して何疑うことなく仕事をし、(略)「利益と効率」の価値軸で生きてきた者が、これからは分配とか共同体とか、何がキャッチフレーズになるのか私にはわかりませんが、がらりと変わった価値観の中で生き直すのは、かなりの困難があるように感じます。
しかし、その困難は、やはり学ぶことによってしか解決しようがないのだと思います。先生はあの折りに、学ぶとは現実のヒダを知ることだとおっしゃいました。たしかに今がいかなる現実なのかを学ぶ姿勢が身に付かなければ、それを変えるという想像力も、自己も変えられるという想像力も、将来を予測する力も身に付かないのだと考えます」

この手紙で「「グローバル・スタンダード」なるものが忽然と崩壊して呆然としているような状況」というのは、2008年9月のリーマンショックを象徴とする、「100年に一度の危機」と当時のグリーンスパンFRB議長が表現したサブプライムローン破綻をきっかけとする世界的な信用不安でした。その後も何度か佐々木さんと面談を重ねていき、秋にはおおよその構成がおぼろげに見えてきたものの進行は一進一退という感じ。本格的に動き出したのは、昨年の「3.11」をきっかけとしてでした。
こんにちは、からまるです。

マントラを掲げよ.png
正木静修さんのビジネス小説『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』の後半、BDDとPCOMのシナジーによる成長戦略を描き、金融庁や三友商事に果敢な戦いを挑んだBDD専務の地影と主人公のコンサルタント・黒見。一度掲げたマントラを曲げず、あきらめずに難題をつぎつぎに克服していくジェットコースターのようなストーリーの結末はどうなるのか。昨日までサワリのほんの一部をご紹介してきましたが、さすがにこれ以上はネタバレになるので、実際に本をお読みくださるとうれしいです。

でも、これだけは申し上げられます。地影専務はサラリーマン重役の限界を突破してみせます。そして訪れるラスト5ページで、みなさんに必ず感動してもらえます。からまるも、このラストシーンがあったらこそ、この持ち込み原稿をきちんとした本に仕上げたいと思ったのです。

『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』は本日発売です。装幀は水戸部功さん。ビジネス用語らしからぬタイトルを断固としたメッセージに変えたタイポグラフィーになっていると思います。コンサルタントで数々の著書をお持ちの波頭亮さんが、

「本書はビジネス版の『官僚たちの夏だ』」

という推薦文をくださいました(そのエピソードはまた後日!)<(_ _)>
こんにちは、からまるです。

昨日のエントリの続き、正木静修さんの『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』後半のご紹介です。

金融庁の調査結果次第では、主人公のコンサルタント・黒見がBDDの新たなマントラを掲げるために主導した、BDDが自前のブロードバンド・インフラを持つPCOMの大株主になる戦略が崩壊せざるを得なくなります。金融庁がクロの判定をすれば、BDDは政府に多額の課徴金を支払った上で、BDD株をTOBしなくてはならないからです。BDDの担当専務である地影が暗に求め、黒見が採った方法は、金融庁の担当大臣に直談判することでした。

金融担当大臣の亀岡は、政界に長く籍を置くベテラン政治家で、「四角い弁当箱のような顔」といえば、ああ、あの人かも?と思わせるキャラクターです。黒見は政治家人脈をたどり、亀岡との面会に成功します。しかし亀岡はTOBを使わずに3分の1超の株を一気に取得するやり口そのものに好感を抱いていません。2005年にライブドアが東京証券取引所の時間外取引でニッポン放送株を大量に取得した事件以来、金融庁はこの問題に神経質になっているのです。

だからといって、BDDが買い取る株を減らせば、全株を売却したいフリーダム・グループの意向も、一気に筆頭株主に躍り出ないとPCOM株を取得する意味を失うBDDの意向にも添うことができません。勘のいい亀岡は、黒見の苦境を見透かしたように、こう言い放ちます。


「買い取りの株数減らすも地獄、逆に白紙に戻すと売買契約違反になり多額の賠償金をフリーダムに請求されるから、それも地獄。株式の取得を強行すると、金融庁が黙っちゃいねえから、それもまた地獄ってわけだな。いったん帰って、(BDD社長の)小野澤ちゃんとよく相談してきなさいな。あんたの双肩にかかっているぜこの話は」
(第九章 モメンタム)


まさにこの亀岡の言葉から、黒見の頭の中を閃光のようなひらめきが走ります。3分の1超の株の議決権を信託銀行に信託し、期間限定で凍結するのです。保有株を一時、3分の1以下に押さえて金融商品取引法のTOBルールを遵守し、ほとぼりが冷めた段階でその凍結を解除させるのです。亀岡大臣の任期中は凍結すれば、亀岡のメンツが立つ。それが狙いでした。

しかしこのスキームを持ち帰ったBDDで、黒見は地影の猛反発にあいます。


そ、そんなばかげたことできるわけないじゃないか! いいかい、われわれは3分の1超の議決権を押さえることができるから、3617億円もの大金をはたいてPCOMに資本参加するのですよ。フリーダム・グループのほとんど言い値でも我慢して買った挙句、議決権も取れなきゃ、俺たちの当初考えていた戦略的構想なんて実現できるわけないじゃないか!」
(第九章 モメンタム)


それに対して黒見は、このように説得します。


「PCOMの事業においては、議決権という数字では示せないパワーバランスが圧倒的にBDDに優位にあるという点も改めてご理解いただきたいと思います」
片岡と地影は互いに目を合わせ、僕の言葉の真意を推し量る。小野澤は上着を脱ぎながら何か言おうとして、いったん止めるが、
「パワーバランスが圧倒的にBDDにあるというのはどういう意味ですか?」
と眼鏡のふちを人差し指で上げながら、僕に訊く。
「ご承知いただいていると思いますが、BDD様が土足でPCOMに踏み込んでいるような印象は実は大きな間違いです。PCOMは、BDDのメガキャリアとしての力なくして将来の成長は望めないと、PCOMの現場やマーケット関係者は理解しています」
「そういう意味で、議決権は一時的に落ちるが、われわれのことを経営的、オペレーション的にPCOMが必要としていると?」
「はい。(中略)本質的に主導権を握るようになる、あるいは握るべきはどちらかということがはっきりする時が来ます。仮に、議決権の凍結が長引いても、BDDの力を必要とする時が必ず来るということです」
(第九章 モメンタム)


一度掲げたマントラを曲げてはならない。どんなに困難が立ちはだかっても、マントラが正しければ、いつかきっと曲げずにいたマントラの通りに現実がついてくる。そういうメッセージを感じます。だからけっしてあきらめてはいけない。こうしている間に、PCOMの筆頭株主の座を奪還しようとTOBを仕掛けていた三友商事の思惑は実を結び、TOB最終日を前に三友商事の保有比率は40.2パーセントと、BDDの3分の1超を上回ることが確実視されることになりました。

BDDはこの戦争に勝てるのでしょうか? 黒見は地影に説きます。からまるがもっとも好きなセリフの一つです。


「途中であきらめて、目指すべき地点への歩みを一度でも止めてしまった人や組織を私はたくさん見てきました。そういう人たちは、あきらめたことで、ほんの一瞬肩の荷がおりても、自らの成長、組織の未来への歩みもそこで止めてしまったことに後で必ず気がつきます。人は面白いもので、あきらめるのはすぐにできてしまうが、途中であきらめてしまったことの後悔の念は、後から後から心に押し寄せてきます。その段階まで行くと、二度と立ち上がれないくらい、あきらめたことがトラウマになってしまう。そして自分や組織に同じような苦境が訪れた時に、また逃げなくてはいけなくなる。組織の成長は、限界を極めようとした時にだけ見えてきます。あきらめないタフさ、一歩踏み出して打って出るタフさというマントラ(信念)を信じてください。そうすれば自ずと、すべきことが見えてきます
(第九章 モメンタム)
こんにちは、からまるです。

昨日のエントリの続き、正木静修さんのビジネス小説『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』後半の盛り上がり紹介です。

日本最大手の総合商社・三友商事にとってもPCOMは「メディアと小売りの融合」を掲げ手塩にかけて育ててきた事業でした。しかしもう一方の大株主であるフリーダム・グループから見ると、日本の典型的な大企業である三友商事は意思決定のスピードがあまりにも遅かった。共に事業を育てるべきパートナーであるはずだったフリーダムがメガキャリアであるBDDに対するPCOM株の売却を一方的に宣言したことによって筆頭株主の地位を奪われることになる三友商事幹部たちは、この仕打ちに烈火のごとく怒ります。BDDとのシナジーを考える以前に、BDDに対する怒りのあまり、社内の冷静な声さえ封じられそうになるのです。たとえば、こんな具合に。


「マジョリティーの立場を奪い返すのはたしかにご指摘の通りですが、BDDとのシナジーもレバレッジすべきです。むしろBDDを排除すべきではありません」
口を挟んだのはメディア・コンテンツ本部の課長である緒方という女性だった(中略)。
「BDDは285万件というブロードバンド顧客基盤を持っています。彼らの巨大なブロードバンド通信網と携帯電話を合わせた複合的なサービスは、今後のPCOMにおけるクアトロ・サービス(電話・インターネット・テレビ・携帯)強化、1契約当たりの月間平均収入の成長には欠かせません。JTTのようなメガキャリアと互角に戦いを挑む、次のPCOM成長へのジャンプスタートには欠かせないパートナー候補です」
「BDDがだと? 君はどこまでアホなんだ! 俺たちの寝首を掻いた奴らを将来に向けて欠かせないパートナーなどと呼ぶんじゃない!
(常務取締役の)楠木は怒りに任せて手元の資料を緒方に思い切り投げつける。会議室は一瞬凍りつくが、緒方は食い下がる。
「ですがそれが事実なのです! 現在、マーケットではメガ通信キャリアを交えた競争が熾烈を極めています。(中略)加入世帯の伸びは鈍化し、高速インターネット接続と電話に関してはマイナス基調です。ARPU(加入世帯当たり月次収入)の成長を語るうえでは、新しい仕掛けとサービスが不可欠なのです。今後は、光ファイバー通信回線を使った番組配信を手掛けるJTTグループとの正面切った競争が予想されます。そんな熾烈なマーケットで、PCOMは素手で戦えとおっしゃるのですか!
(第九章 モメンタム)


こういう会議で経営幹部を前に持論を述べる難しさは、サラリーマンなら誰もが経験するところではないでしょうか。そういう経験からすると、なかなか胸がすくシーンですよね。こうして会議の方向は、筆頭株主の地位を奪い返すためのTOB(株式の公開買付)を決めつつも、その後にBDDと共に達成すべきゴールを明確にすることに収斂していきます。

それに対して、黒見主導によるBDDへのPCOM株売却には、一つの大きな問題がありました。金融商品取引法に定められたTOBルールです。企業の3分の1以上の株式を取得する場合はTOBが必要だと定められているのです。フリーダムと黒見は、フリーダム・グループが持つPCOM株を直接売却したわけではなく、中間持ち株会社が保有していたPCOM株をBDDが取得した形にしているので問題ないという主張でしたが、グレーゾーンであることには違いはなく、金融庁の調査結果次第でもありました。ここを三友商事に突かれると、BDDは強欲なフリーダムに65%ものプレミアムを乗せられた価格で株を買って大金を払ったにもかかわらず、さらにTOBをかけて一般株主からも株を買わなくてはならなくなります。いくらキャッシュがあっても足りません。BDDの地影専務は深刻な状況に追いつめられます。

と同時に、それは主人公・黒見がBDDに対して行ってきたプロのアドバイザリーとしての能力に根本的な疑問を突きつけるものでもありました。黒見は手を汚してても起死回生の方法を考えつかなくてなりません――。
こんにちは、からまるです。

昨日はうっかりこのブログを書くのを忘れてしまいました<(_ _)>。滅多にないことなのに、なぜか昨晩は寝るまで書き忘れに気が付きませんで......まったく、なんということでしょう。

いま3月に出る本がつぎつぎと刊行・見本出来・最終校了などなどを迎えていて、からまるは朝から晩までひたすら作業する日々なもので、一つ終わると安心してブログのことに気が回らなくなっているのかもしれません。ただの言い訳ですが。

さて、先週の予告通り、37歳の現役総合商社マンである謎の覆面作家・正木静修さんの処女作『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』の後半盛り上がりをご紹介しましょう。主人公のコンサルタント・黒見は、以前その一員だったアメリカの通信コングロマリットであるフリーダム・グループから、フリーダムが持つケーブルテレビ局のポピュラー・コミュニケーションズ(PCOM)株の売却先を探しています。フリーダムは日本の最大手商社である三友商事をパートナーとして日本での高速通信インフラと通販事業の展開をしてきたのですが、三友商事の保守的なスタンスと通販事業の成長の限界のために日本での事業に見切りをつけたかったのでした。

では、どこに売ればいいのか? 黒見が目を付けたのが、通信キャリアのBDDです。最大手のJTTのアクセス回線に多額の使用料を払わないとブロードバンド事業を展開できないために苦戦を強いられているBDDにとって、自前の高速通信インフラを持つPCOMは喉から手が出るくらいにほしい会社であるにちがいない。それをプレゼンする先は社長ではなく、現場実務の意思決定を握り、社内の人望も厚い地影俊夫専務である。そう見抜いた黒見は、まず地影につながる大学教授にお土産付きで地影を引き合わせる工作を依頼します。そしてあるパーティーで地影と密談するチャンスを得て、PCOM売却の提案をします。ところが地影は、3000億円という譲渡価格に怖じ気づきます。黒見は、PCOM入手がどうしても必要であるとしたらBDDにそれ相応の覚悟が必要であると迫ります。地影はどう反応するでしょうか。

黒見はパートナーのロブの話に耳を傾け、考えを巡らせます。


「本当にビジネスを仕立て上げられる人、組織をジャンプスタートさせられる人は、決して″待ちの姿勢″にはならないということさ。そういう人は料理をするんだ、自ら」
ロブは悠然とした口調で言う。たしかにその通りだ。チャンスが来れば自ら率先して挑み、確実に仕掛けを料理する、それはプロと呼ばれる人だけがなせる技だ。ジャンプスタートとは、もともと英語で「バッテリーのあがった車のエンジンをかける」時に使うが、復活させる、甦えさせる、思い切った手段で活性化させるという意味も持つ。組織・周囲の人を虜にして、巻き込んでいくために、黙って座っているだけでは何も起きない。バッテリーのあがってしまった車をジャンプスタートさせるように、強烈に周囲の心を動かし、組織に爆発的な駆動をかけ、驚くべき力で仕掛けを前に進めることが求められる。それこそプロが見せる「料理する力」だ。
(第八章 料理する力)


しかし、株の譲渡にあたっては、PCOMのパートナーである三友商事との協議が必要になります。しかし、本来シナジーを組むべき相手である三友商事とBDDは深刻な対立に陥ります――。
共にありて.jpgのサムネール画像こんにちは、からまるです。

千葉望さんの新刊『共に在りて 陸前高田・正徳寺、避難所となった我が家の140日』はいよいよ本日発売です。ただ東北地方は今日には間に合わず、明日以降になるかと思います、申し訳ありません。

釈徹宗さんがツイッターでこういうツイートをしてくださいました。

「千葉望さん『共に在りて』講談社、少し読んで泣いて、少し読んでは泣いて...。千葉さんが書く「地域のお寺」の感性は、私にはとてもよくわかる。」

どうもありがとうございます! こうした共感が徐々に広がるようにしたいと思っています。陸前高田市では今もさまざまな活動が継続しているようです。また陸前高田に行きたいな。
こんにちは、からまるです。

昨日のエントリの続き、問題から目を背け、外部のコンサル風情に何がわかるとトイレを理由にミーティングから逃げたKALの宇田川副社長の態度を恥じらい、このミーティングを実現させた経営企画室の若い課長である川崎が物語の主人公・黒見に詫びます。それに対して黒見は、こういうアドバイスを授けます。正木静修『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』のハイライトシーンの一つです。


「川崎さん、危機的な状況にある企業がまず捨てなければならないのは、何だと思いますか?」
川崎はこの質問に戸惑う様子だ。
「過去のしがらみとか、業界慣習とかでしょうか?」
「それも捨てなければならないものですが、会社が追い込まれれば、自然と捨てなくてはならなくなります。ですから最初に捨てなければならないものではありません」
僕は運河のふちの手すりに手をかけ、思いっきり息を吸い込み、吐く息に乗せて言う。
「恐怖です」
沈黙が僕と川崎の間で渦を巻く。
「企業の再生とは、僕の経験では、新しく事業を創り出す時以上に″クリエイティビティ″を必要とします。追い込まれた状況の中で、そこにいるメンバー全員が頭を使い、考え、そして不可能と思えることに果敢にチャレンジしなくてはなりません」
川崎は運河の一点をじっと見つめている。
「ですが、恐怖はそれを完全にシャットダウンします。大きな視点で物事を見る機会を奪い、自ら考えるという思考回路を停止させ、瞬時に行動に移すべき力を奪う。それが恐怖です」
僕は川崎のことを見ずに、続ける。
″これをやったら、上司は何と言うだろう?″″これを主張して失敗したら責任を取らされる......″。そういう具合に人を緊張させ、収縮させ、安定的で小さな保身に執着させる。でも、あなたには勇気がある。恐怖を捨てようと努力している」
僕は川崎を見る。川崎は澄んだ、冷静な目で僕を見ていた。
「川崎さんのような人がいることでKALは救われたと、僕は個人的に考えています。あなたは恐怖を克服できるはずです。そういう人は、必ず組織をリードするマントラを掲げることができます」
(第五章 違いを創り出す)


しかし、黒見は楽観的過ぎました。宇田川副社長は川崎に容赦ない報復を下します。川崎へ、課内全員にccを付けて、このようなメールを流すのです。


川崎課長
 小職としては、貴職のこの経営危機に対する姿勢に疑問を抱かざるを得ない。外部の専門家たる者に当社情報を渡して、組織に対する不信感を抱かせるようなアドバイザリーを受け、それを正として中期経営計画を立案することは、言語道断と思料する。貴職を本プロジェクトから外すこととする。以後掛かる事なき様、厳正なる対応を望む。 宇田川
(同上)


そして川崎はインドのムンバイ事務所への転勤を会社から命じられます。「情報を外部に渡すとは何事か!」と改革のための事業戦略とは関係ない筋違いのことで社員に制裁を加える、パワハラを超えて、いじめとしか言えない仕打ち。登場人物の無念がありありと伝わってくる、『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』の中でも出色の部分なのですが、それだけに改革に立ちはだかる大企業病の罪深さもありありと感じさせます。

しかし、大企業の経営者だからといって、そんな病に冒された人ばかりではありません。大企業の経営者でも、自らを変え、会社を変えることができる人もいて、この物語にはそういう人物も登場します。大手通信キャリア会社の専務取締役である地影俊夫。黒見に導かれるようにして、一介のサラリーマン重役だった地影が勝負師に変貌していく、胸のすくような後半の盛り上がりを来週はご紹介します!
こんにちは、からまるです。

昨日のエントリの続き、日本最大手の航空会社KALのマントラは何なのでしょう? ビジネス小説『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』の主人公・黒見はこういう議論を展開します。


「(KALの)西岡社長が言われる機内サービスを改善するといった高品質サービスへの取り組みがマントラだとは思いません。地上職の人たち、客室乗務員たち、パイロット、ありとあらゆる職種の人たちがみんな心を一つにして機内サービスの改善を心に誓うことなどあり得ません。そもそも、機内サービスを改善して顧客をひきつけられる時代でしょうか? KALが掲げるべきマントラではありません」

「経営理念のように曖昧な言葉で、マントラを語る必要はないと思います。品質の改善、企業価値を高める、努力と挑戦、どれをとっても、この数十年の熾烈な航空業界の戦いの中で見出してきたKALが本質的に心に掲げる信念ではありません。そこに、KALという航空会社が存在する″意味″が欠けていることはあきらかです。組織として存在する意味が欠けているのですから、そこで死に物狂いで働く人々が取り組むべき″意味″について理解できるはずもありません。もし、私がKALのためにマントラを掲げるなら、答えは実にシンプルです。それは、

″FAST・FAR・PEACE″

 という三つのワードに尽きます。鉄道や車でドライブするよりも速く(FAST)、国内線がメインの競合他社と比してさらに遠く(FAR)へと行くことができ、ご搭乗いただく顧客に対して絶対というレベルで安心(PEACE)を運ぶことができる。KALが掲げるべき信念はこれしかない。パイロットから地上職のカウンターにいる職員まで、誰もが日々の運行業務の中で″これを胸に今日もがんばるぞ!″と誓える信念です
(第四章 意味を追求する)


からまるは原稿を読んで、この議論にノックアウトされましたね。「信念を戦略に変える力」というサブタイトルは、じつはこの議論を読んで考えついたのです。″FAST・FAR・PEACE″というマントラを掲げることによって、「鉄道や車でドライブするよりも速く(FAST)」するにはどうすればいいのか、「国内線がメインの競合他社と比してさらに遠く(FAR)へと行く」ようにするにはどうすればいいのか、「ご搭乗いただく顧客に対して絶対というレベルで安心(PEACE)を運ぶ」にはどうすればいいのかといったように、マントラはことごとく体的な事業戦略に展開することが可能になるからです。ントラ(信念)を戦略に変えるのが、マントラ自身が持つ偉大な力ではないか、と思ったのです。

では、肝心のKALは黒見の議論にどういう対応をしたのか。黒見はKAL本社に乗り込み、改革のキーマンとされる宇田川副社長、山上経営企画室副室長、川崎課長の三人と対座します。しかしキーマンであるはずの宇田川副社長は、黒見が指摘する実質債務超過という隠れた現実から目を背けようとします。業績は回復傾向だし、まだそう決めてかからなくてもいいのではないか、と。もし資金ショートを起こしたらどうなるかと問われても、「それで、どうなるって言うんですか」と開き直るのです。しかしそうして現状を追認し、景気回復や金融事情の改善など、自力でできない範囲の救済をあてにするようでは、将来に向けた問題解決になりません。

結局、宇田川副社長は、なんとミーティングの最中に「トイレに行く」と言って中座したまま、戻ってくることはありませんでした。文字通り現実から逃げたのです。

しかし、同席した若い川崎課長は、黒見の呼びかけに内心、反応します。ミーティングが終わって、一人、黒見を追いかけて副社長の態度を詫びる川崎に、黒見は重要なメッセージを授けます――。
こんにちは、からまるです。

会社の戦略が、それを掲げる組織の人たち全員の納得がいくものになっているかどうか。全員が心から納得できるものが、正木静修さんのビジネス小説『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』が言う「マントラ」です。でも、そういう「マントラ」って何なのだろう。

大企業にいる方なら、咄嗟に「社是」「経営理念」を思い浮かべますね。講談社には創業者で初代社長・野間清治が決めた三大社是というのがあります。「渾然一体・誠実勤勉・縦横考慮」。それを解説した野間の言葉を引用しますと、

「「渾然一体」は、各個人を打って一丸となし、目的に向って邁進せしめるゆえんの主義であり、理想である」「「誠実勤勉」は、個人の人格の本質であり、「縦横考慮」は、その材器の能力である」。このように社員手帳の冒頭に書いてあります。

これには反論の余地がありません。でもはたして心を打つかというと、どうでしょうか。ちょっと抽象的だと思うんです。からまるはこうやって引用して初めて社是の解説を知ったほどの落第社員ですから、会社を代表してモノを言うことなどまったくできませんが、でも、からまるを含めて多くの社員が「渾然一体・誠実勤勉・縦横考慮」よりも「面白くて、為になる」という、野間が言う「大目標」のほうを、いつも企画を考えるときに気にするし、心に掲げやすいと感じていると思います。編集者にもよると思いますが、「面白くて、為になる」は、戦略というには平凡過ぎるけれど、心の納得感はじゅうぶんにあり、これはマントラとして通用するのかもしれません。

『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』で主人公・黒見がクライアントとして相手にするのは、日本最大手の航空会社KAL(国際アジア航空インターナショナル)です。万年赤字続きで取引銀行に増資を引き受けてもらってなんとか延命している状態で、政府が経営再建に本腰を入れるよう経営陣にプレッシャーをかけています。黒見は個人的に親交のある国土交通大臣・小宮山雄一郎の依頼を受けて事に当たるのですが、血を流す改革を回避してきたKALはマントラを見失っていると、黒見は小宮山に指摘します。


「マントラ? そりゃあご立派なのがKALにはあるだろ。俺は国交大臣として嫌って程叩き込まれたぜ。いいか、

KALグループは、総合力ある航空輸送グループとして、お客さま、文化、そして心を結び、日本と世界の平和と繁栄に貢献します。

1.安全・品質を徹底して追求します。 
2.お客さまの視点から発想し、行動します。 
3.企業価値の最大化を図ります。 
4.企業市民の責務を果たします。 
5.努力と挑戦を大切にします。

だろ?」
「小宮山先生、それはKALのビジョン・経営理念ですね。マントラではありませんよ」
(第四章「意味を追求する」より)


「マントラではない」と答えたのは稲垣和幸という人物で、セラミックの技術から身を起こし一代で大企業グループを作り上げた伝説の経営者です。小宮山国交大臣の個人的アドバイザーを務め、後に再生の切り札として政府からCEOに任命されてKALに送り込まれることになります。


「稲垣さんのおっしゃる通りです。この経営理念からは、KALの従業員が心の底から情熱を持って示すべき、あるいは抱いているマントラがまったく見えてきません。(中略)KALという企業の根底にある大切な主義・主張が、日本と世界の平和と繁栄なんてことはありません。親方日の丸体質がKALの組織に染みついているから、そういう言葉が出るのです。僕が知りたいのは、航空会社の社員全員が毎日飛行機を飛ばすために胸に誓う、いや、誓わなければならない主義・信念です
(同上)


では、それはいったい何なのでしょうか。編集者なら、毎日企画を考え、取材を行い、原稿を読み、ときには書き、本を編集するときに胸に誓う主義・信念ということになるのですが――。
こんにちは、からまるです。

先週のエントリの続き、超大型新人・正木静修さんの『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』の話題です。

主人公のコンサルタント・黒見が衝撃の出会いを果たした人物とは、黒見が入社した「TV・ホーム・ショッピング社」を後に買収することになるメディア・コングロマリットのフリーダム・グループ会長、スコット・ミラーなる人物です。希代のメディア王とも、逆に悪の帝国のダースベイダーとも呼ばれる米国メディア再編のキーマン。その人物に黒見は会社案内をし、投資を受けるためのプレゼンをします。

一通り終わると、黒見はミラーのリムジンカーに呼ばれ、二人きりで話を交わします。ミラーはそこで独特のビジネス哲学を開陳します。それが「マントラ」なのです。


「(勝算が)70%ならやるべきだ。ビジネスというのはそういうものだ。君はマントラを知っているか?」
「マントラ?」
 僕は初めて聞く言葉に少し戸惑う。
「簡単に言うなら、自分の信念や主義、持論だ」
 僕は天井に目を向けながらそのミラーの言葉を反芻する。
「自分の信じること、すなわち一度掲げた″マントラ″に対して、人は過剰な自信を持って取り組むべきだ。それが組織を導くストーリーとなり、成功を導く戦略となる」
(第一章 痛みを癒す)


ミラーが持つもう一つの哲学が、「サヨナラホームランの美学」です。結果よければすべてよし、顧客の度肝を抜くような圧倒的な成果を、顧客が予想もしないタイミングで繰り出す。その強烈なインパクトが顧客やライバルを惹きつけてやまなくなるというのです。「仲良しクラブ」的護送船団方式とは対極的なビジネス手法です。

もちろん、仲良しクラブでやっていけるビジネスや業界であれば、昔ながらのお互いに突出しない(させない)護送船団方式も成り立つのかもしれませんが、メディア業界で仲良しクラブをやっていたら全員が衰退してしまいます。この業界では、誰よりもインパクトを与えるサヨナラホームランバッターに評価と仕事が集中し、その人は圧倒的な成功をおさめていきます。日本の通信業界なら、誰でも咄嗟に、あの「犬のお父さん」のオーナー経営者の顔を思い浮かべますよね。

そうした「インパクトを与える」コツが、BIG  THINKなマインドセットでマントラを掲げることなのです。ミラーはこう教えます。


「平均点の仕掛けを狙わず、一発ホームランを狙うにはどうすればよいか君はわかるか?」
「いえ......」
「世間一般で誤って認識されていることは、この一発ホームランは、誰もがなしえることができるものではないという考え方だ。だが、自分のマインドセットを、THINK BIGな発想から来るマインドセットに置き換えることで、実は誰にでも実現可能となる。″マインドセットはTHINK BIGである″と肝に銘じると、口を突いて出てくる言葉に自分の描く夢が乗り、情熱がこもる。それは君にとって大切な信念となる。そしてその信念が君に何が本物なのかを見極めさせ、他者には訪れることがない運命を引き寄せることを許す。そのマントラを掲げるのがコツだ」
(同上)


ミラーが黒見のいたテレビ通販会社を買収した後も、そしてその会社を辞めて黒見がコンサルタント会社を設立した後も、黒見はこの教えビジネスに生かしていくのですが、そこに大きな壁が立ちはだかります。日本の伝統的な大企業です。

ビッグビジネスをしている。立派な社是も戦略もある。人材もいる。キャッシュもある。しかし、事なかれ主義が組織内に蔓延し、新しい挑戦に対しては「できない理由」ばかり探す有能な大企業エリートたち。かれらが新しい時代に必要な変化を妨げる存在となって、本来は素晴らしい資質を持つ大企業を、ゆっくり衰退に向かわせているのではないか。かれらは本来その企業が持っていた素晴らしいマントラを見失っているのではないのか。戦略は一見よくできているが、組織の人間たちが心から納得できるものになっていないのではないか。黒見はその点をクライアントとなった企業の担当者に向かって執拗に問い質していきます――。
こんにちは、からまるです。

昨日のエントリの続き。『マントラを掲げよ 信念を戦略に変える力』の著者は正木静修さんといいまして、これはペンネームです。最初は本名で出そうと考えていたのですが、小説の登場人物のモデルになっている人たちを直接知っているし、まだリアルタイムで動いている話まで盛り込まれていますので、さすがにちょっと本名を出すと差し障りがあります。それに、勤務先の総合商社にも黙って出すので、職場の上司の方や同僚の方からどんなハレーションが起きるかわかりません。そういう次第で、著者が考えたのが、この正木静修という名前なのです。

さて、これは一体どんな小説なのでしょうか。主人公は黒見恵吾という経営コンサルタントです。小さいながらも自分のコンサルタント会社「ジャンプスタート・パートナーズ」を、アメリカのビジネススクールで出会ったロブ・ケニーと二人で経営しています。事務所は東京・広尾の閑静な住宅街にあります。

黒見は1990年にアメリカのコーネル大学を卒業し、テレビ通販のベンチャー企業「TV・ホーム・ショッピング社(THS)に入社します。テレビ通販市場が爆発的に拡大する中、THS社も破竹の勢いで成長していきます。しかし入社したばかりの頃、黒見の頭でっかちの事業プランはことごとく先輩たちの罵声を浴びます。

「俺は君のロジックなんか、聞きたくない! 役に立たない小僧は出てってくれ!」

こんなふうに言われた経験、新入社員の頃はよくありましたよね。洗礼ってやつです。見かねた直属の上司が黒見に諭します。

「一流大学を出たというプライドや、学校で習った教科書通りのやり方と知識では飯は食えないってことだ」

そして言います。

「恵吾、お前が言っているのは、つまらないコンサルタントなんだよ。全然、消費者が求める痛みに向き合ってない。友人が血を流して倒れているのを見て、横でその実況をやっているだけだ。痛そうですね、事故の状況としては、車があっちから走ってきて、こう轢かれたんでしょう、残念で仕方ありません......そんな実況放送をしているだけさ。でも友人はどんな癒しを求めている?」

「そりゃあ救急車を呼んでほしいでしょうし、傷の手当も......」

「それだよ! それ! ウチはさ、コンサルタントが見せるような手を汚さず、きれいで響きのよいロジックに基づいたマジックなど必要としていないんだ。生で、リアルな痛みを君にもわかってほしいんだ。そのために何ができるかを一人ひとりが考え、絶対に誰もが誓うべきマントラを生み出す。それが小売業ってもんさ。だから単に″メディア事業者と組む″とか″新しいメディア事業を志向する″なんて言葉じゃ消費者には伝わらない。もっと具体的に言ってみろよ。自分の信念や主義っていうのは、自分の言葉で語ることで、初めて命が吹き込まれるのさ。どんなメディアと何をするんだ? それによって、一体どんな化学反応が起きて、そしてそれが消費者の何を癒すんだい?」

こうしたアドバイスから黒見は、つねに消費者の「痛みを癒す」具体的なやり方をつぎつきと考えていくようになります。それから4年後、黒見はもっと衝撃的な人物との出会いを遂げます――。

と、次回に続くのですが、明日はお休みします。また来週!

このアーカイブについて

このページには、2012年3月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2012年2月です。

次のアーカイブは2012年4月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

カテゴリ

月別 アーカイブ

ウェブページ

Powered by Movable Type 6.2.4